入門ワークショップを開催している
Feel The Garden を訪問
今回訪ねたのは、杉並区に拠点をおくテラリウム工房「Feel The Garden」さん。創設者の川本毅さんは趣味にしていた盆栽から発展して、苔を中心にした作品づくりを始めたところ好評を得て独立してしまったのだそう。4年ほど前から仲間と共に「苔テラリウム」のワークショップを各地の百貨店やカルチャースクール等で開催しています。
さっそく、初級編のクラスを見学させてもらいました。
① 苔の特殊性を知る
本日の講師、中村美緒さんから苔についての基礎知識を教わります。
「苔(コケ)は蘚苔類(せんたいるい)ともいい、何億年も前と同じ姿のままで存在している原始的な植物です。根がなく、根から水を吸い上げる管(維管束)もありません。種子も作らず、胞子で増えます。蘚苔類は世界には約1万8000種ほどあり、日本はそのうちの10分の1、約1800種が集まる、苔の豊かな国です」と中村さん。なるほど、古いお寺の庭一面に苔の生えた風景は、日本文化の一部ですね。
② 土台を作成
この日の初級講座では、250mlサイズの薬瓶を使ったテラリウムをつくります。
まずは薬瓶の内側を水で拭いてきれいにします。風景の土台用に、余分な有機物を取り除き、抗菌性と保水性を高めた苔テラリウム専用の土が用意されています。
平地にするか、坂道をつくるか、自分が作りたい風景を頭の中で描きながら、スプーンで瓶の高さの4分の1ほど入れていきます。土を入れたら水を適量注いで、水の重みで土台を固定します。
③ コケのかたちを整え、植えていく
初級講座では苔は一種類だけ、ヒノキゴケを使います。明るくきれいな緑色で、ふわふわとした葉の流れが特徴で、風にそよいでいるようなイメージがつくれる苔です。
生え際を揃えるようにして、いくつかの束にまとめていきます。この日使っている250mlサイズの薬瓶なら最大20本程度、1〜3束くらいにするのが見栄えがよいと中村さん。
思い通りのかたちのヒノキゴケの束を作ったら、土の上に植えていきます。講座では、ピンセットを使ってまっすぐ縦に植えるコツも教えてもらえます。
④ 飾り砂を入れる
黒い砂や白い砂、水を含むと色が変わる砂など、4種類の飾り砂を使って風景にアクセントをつけていきます。一度失敗するとなかなか取り出せないので、ごく少量ずつ入れていくのがポイント。白く細かい砂は道のイメージとしてよく使われます。
⑤ ジオラマ用パーツで情景を作る
坂道や家、さまざまな動物や人物のジオラマ用パーツが多数用意されていて、参加者は好きなパーツを選んで土台に差し込み、固定させます。精巧な人物のフィギュアが入ると、情景がいきいきと輝きだしますね。
1人ひとり異なる"ものがたり"の情景が完成!
このテラリウムはどれくらい持つのでしょうか?
「苔は空気中の水分を葉で吸収しながら、わずかな光があれば光合成によって必要なエネルギーを作ります。空気が乾燥すると葉を閉じてパリパリになりますが、これは生命活動を休止しているだけ。水を与えれば元に戻る特殊な生物です。ガラス瓶の中では水は循環しますので、結露ができるのは苔が元気に呼吸している証拠です。逆に、瓶の内側がカラッと乾いてきたなと思ったときに、霧吹きで水を与えてあげれば大丈夫です」(中村さん)。
苔テラリウムは手がかからないというのは、そういうわけなのですね。でも湿気があるなら、別のカビが生えてきたりしませんか?
「苔は光合成によりポリフェノールを生成していて抗菌作用があるため、テラリウムの中はカビにくく、腐りにくいんです。ただし蓋を開けると多くの菌が入ってしまいますので、なるべく蓋を閉じたままで育ててください」(中村さん)。
また暑さには弱いため、夏に旅行で不在にするような場合は冷蔵庫の野菜室などにしまったほうがよいそうです。
テラリウムの起源
テラリウムの起源は、19世紀半ばにロンドンの医師ナサニエル・ウォードが発明した「ウォードの箱」。大航海時代の始まりからオランダやイギリスでは、プラントハンターが有益な植物を求めてアジアや中南米を探索していましたが、苦労して手に入れた植物を生きたまま本国まで持ち帰るのは非常に困難でした。ウォードはイギリスのシダと芝生と少量の土を入れたガラスケースをオーストラリアへ運ぶ実験をします。航海中、密閉したガラスの箱の中で水も一滴も与えず、約6カ月後に航海を終えるまでシダはしっかり生きていました。以降、プラントハンターたちに「ウォードの箱」が普及したほか、貴族の間でも新しい園芸として流行しました。中国からインドへ生きたお茶の木が移植されたのも、ブラジルからゴムの苗木を新植民地へ運ぶことができたのも、実はこの「ウォードの箱=テラリウム」が発明されたからというわけです。
※この記事は2020年3月26日時点での取材による情報です。