ココジカ

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日本が誇る原風景 棚田を守る

Vol.84 / 2018, 10

日本の原風景のひとつ、棚田。今、棚田が急速に失われつつあるのを、ご存知でしょうか。農業従事者の高齢化や後継者不足、なによりも平地の田んぼに比べて生産性が低く重労働であることから耕作放棄地が増え、棚田は危機的な状況におかれています。今号ではサンウッドのCSR活動(Corporate social Responsibility =企業の社会的責任)の一環として、新潟県上越市くびき地域で農業を営む「棚田オーナー制度(にいがた農園倶楽部)」のプログラムに参加した様子をご紹介します。

SUNWOOD CLUB MAIL MAGAZINE Vol.84
深見啓輔さん
お話を伺った方
にいがた農園倶楽部
深見 啓輔 さん

「棚田オーナー制度」とは?

「棚田オーナー制度」とは、都市に住む人たちに棚田を貸し出し、農業体験をしてもらい、収穫物を提供する制度のこと。単に田植えや稲刈りなどの農業体験をさせるだけでなく、耕作放棄地の抑制に効果があるとして、棚田の保全施策として全国各地に広まっています。「にいがた農園倶楽部」で導入されたきっかけは何だったのでしょうか?深見さんに伺いました。

稲穂と米

「私は埼玉出身で、妻の実家である棚田農家を手伝うため、農繁期には毎週末埼玉から通っていました。平日は営業職、週末は農業・・とハードワークにも関わらず、農業に関わっていると心が癒されて、体が軽く感じられたという経験から、都会には棚田での癒しを必要としている方も多いはずと考えました。また、家庭菜園の延長で自分の棚田を持てることで、お米を愛情深く味わえること、お子様の情操教育にも役立つと考えました。」(深見さん)
自らの実体験に基づいたものだったのですね。

コラム:棚田にはどんな利点があるの?

棚田には、単に食料生産の役割だけでなく、人や環境にとっての様々な利点があります。

災害防止 大雨が降った際にダムの役割を果たして水を貯留することで、洪水を調節し、地滑りや土砂崩れなどを防ぎます。
水源の涵養(かんよう) 雨水や雪解け水などの地表の水がゆっくりと地下に浸透していくことで地下水となり、飲み水として利用できます。
生態系の保全 田んぼには多種多様な小動物・昆虫・植物が生息しています。絶滅危惧種の約3割は田んぼに住む生き物といわれ、これらの生態系を守ります。
景観保全・伝統文化継承 稲作や衣食住にまつわる習俗・民俗文化・伝統文化財を後世に伝えます。

実際に田植えを体験してみよう

にいがた農園倶楽部の棚田

訪れたのは5月。東京駅から上越新幹線の「越後湯沢」駅下車、在来線にて「うらがわら」駅を下車し、車で10分ほどの場所に、にいがた農園倶楽部の棚田があります。(東京駅より約2時間40分)
この日は朝から良く晴れて、絶好の田植え日和となりました。農園の母屋にて着替えを済ませて集合します。
作業を体験する前に、深見さんからレクチャーを受けました。

深見さんからレクチャーを受ける

「稲の品種は新潟産『コシヒカリ』です。甘味があり、香りも良いので炊き立ては噛めば噛むほど旨味が増します。冷めても美味しいのでお弁当やおにぎりにしても楽しめます。」(深見さん)

特に、にいがた農園倶楽部では在来品種コシヒカリを作っているのだとか。「市場に出回っている新潟産コシヒカリは、BL米といって病気に強い改良品種です。現在、新潟県で作付けされるほとんどのコシヒカリがBLであり、在来品種を入手できる機会はグッと減りましたが、明らかに旨味・甘味に違いがあります。」(深見さん)
無事に稲穂が実れば、秋には美味しいお米が食べられるとあって、俄然やる気がみなぎります。

いよいよ作業開始です。初めて入る田んぼの感覚に、参加者一同から悲鳴が上がります。
「水田はつま先から入って、かかとから抜けるように歩いてください。強引に方向転換をすると、足を痛めたり転倒してしまう恐れがあります。」(深見さん)長靴がはまって抜け出せなくなるのではと、恐々としながらも歩みを進めます。
ぬかるんでいて、歩くだけでも一苦労・・。田植えの仕方についてもコツを教えていただきました。

田植えの様子

「苗は親指、人差し指と中指で根を抑え、3、4本を置くようにまっすぐに植えていきます。 一度に植える苗の本数が多すぎると、風通しや日照に問題があり病気になってしまったり、少なすぎても逆に風当りが強くなりすぎて病気になってしまいます。」(深見さん)

作業自体は簡単ですが、等間隔につけられた目印に沿って地道に作業を進めていくうちに、だんだんとかがめた腰が疲れてきます。今でこそ、田植機が普及し、手作業での田植えも減ってきたということですが、昔は地道に手作業をされていたのだと思うと、頭の下がる思いがします。

田んぼに等間隔の目印をつける

田んぼに等間隔の目印をつけていたのがこちらの農具で、「ころがし」というのだそうです。その名の通り、転がしていくと枡の形に跡がつきます。

単調な作業で楽に見えますが、転がして植えてを繰り返していくと、小1時間ほどですっかりやり遂げた気分。普段使わない筋肉を酷使したせいで、肉体的には疲弊しましたが、鳥のさえずりとカエルの鳴き声、マイナスイオンをたっぷり吸って、ただひたすらに土と向き合う時間は、頭がすっきりとして気持ちが軽くなるようでした。

田植え中

一度体験した人はほとんどがリピーターになる、というお話に納得の素晴らしい体験となりました。次回訪れるのは稲穂が実をつける頃になりますが、深見さんいわく、棚田のあるくびき地域周辺では夏になるとホタルが舞飛ぶ姿を見られるのだそう!ホタルは綺麗な水があり、草木が豊富な環境でしか生息できません。40%以上の棚田が無くなっているといわれるこのくびき地域で自然を守り継いでいくことの意味を改めて実感しました。

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