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小森谷 厚 さん
花は野にあるように
一般的な花屋さんで売っているお花は洋花中心で園芸農家が栽培したもの。切り花は特にまっすぐで規格がぴったり揃っています。そのため、花束になるときれいだけれど、1本買って一輪挿しで飾ると何だか棒みたいで物足りない...そんなふうに感じた経験はありませんか?
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人の手によって作られた花は、花を強調するために葉が小さく、茎がまっすぐな状態になるため、ともすれば花の個性が失われてしまいます。たとえば、いけばなのテクニックのひとつに「枝をためる」という手法がありますが、これは、まっすぐな枝を曲げることで花材本来の個性的な自然の姿を引き出す目的でもあります。
花屋さんがなかった時代は、野花を摘んで生けていたはずですが、花を生けるという文化も、野に咲く花の美しさに感動したことが始まりではないでしょうか?千利休の有名な言葉、「花は野にあるように」(野に咲いているように自然な美しさを引き出すように生けるとよい)にもそれは表れているといえます。
人の手が入っていない自然の造形美。そのままのかたちを愛でることのすばらしさを思い出させてくれる店が、一軒くらいあってもいいのではないか? オーナーはそんな想いから、1998年に野花の専門店として「野の花司」をスタートさせたのだそうです。1階が花屋、2階がギャラリー兼喫茶室、3階の教室では野花にまつわるカルチャースクールが開講されています。
季節の花を知り野花の魅力を感じよう
銀座松屋の裏道にたたずむ「野の花 司」。小さな店の前はいつも季節ごとの野山の草木で溢れかえり、ここが都心の銀座3丁目であることを忘れてしまいそうな風情。通りかかる多くの人が「ここは何?」と思わず足を止めています。
お店に並んでいるのは、畑や温室で栽培された花にはない、曲がっていたり、かぼそかったりする野花たちで、北は青森から南は熊本までの山林所有者と契約して取り寄せています。また、人の手によってつくられた品種や外来種でも、自然の環境のなかで時期が来て咲くものなら扱っています。さっそくこれから初夏にかけてのおすすめの花を「司」の小森谷さんに紹介していただきました。
園芸種
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シャクヤク 中国原産の常緑性の花木。豪華な花弁はその昔、西洋人を東洋文化に憧れさせました。
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ナデシコ 夏から秋にかけて花を開くカワラナデシコとその基本種エゾカワラナデシコは古くから親しまれ、秋の七草の一つに数えられています。
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クレマチス つるがとても丈夫なのでテッセン(鉄線)という別名があります。大きな花がたくさん咲くので、涼しげでありながらゴージャスです。
野草
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舞鶴草 ハート型の葉っぱとツブツブの白い小花がかわいい多年草。葉のかたちが鶴が羽を広げているような姿といわれています。
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車葉衝羽根草(クルマバツクバネソウ) 深い山の樹林で育つユリ科の多年草。黄緑の部分が花で紫黒色は実です。ユーモラスな花のかたちを、じっくり眺めてみたくなります。
野の花は一輪でも美しい
初心者におすすめは口の細い花瓶を用意すること
"一輪でも絵になる"のが野花の魅力です。また、野花は数少なく生けたほうが持ちがよい、と教えてくれた小森谷さん。たくさん詰め込むとエチレンガスを出してお互いを痛めてしまうのだそう。なので、少しのお花を生けて楽しむのが基本。自然の造形のおもしろさ、涼しげな風情は、お部屋のアクセントとしてぜひ取り入れてみたいものです。
野花を生けるときのポイントを小森谷さんに教えていただきました。
1:口の細い器を使うこと
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お花の姿を整えやすい細口の器を選ぶことが、野花を飾るときの基本です。コップのような広口の器では、ばらっとした印象になってしまいます。写真のように、角度を一方向に揃えさせ、光に向かって伸びてゆく自然の姿を表現すると、華奢な野草が引き立ってきます。また器の下に木の敷板などを置くのもポイントのひとつ。和のテイストが強まり、そのコーナーの格が一段上がった印象に変わります。
2:テーブル用には水盤かお皿を使って
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テーブル花として飾るなら、浅い水盤やお盆、ボウルなどに水を張ってみてはいかが。剣山を使わなくても、枝を流して器に置いてみるだけで絵になりますし、涼しげです。しかも花瓶と違って倒す心配がありません。写真は新芽をつけたカラマツの枝、森の生命力を感じさせますね。
3:置く場所に困ったら「掛け花」がおすすめ
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棚のスペースがない、小さなお子さんやペットがいるのでテーブルに花を置くのが不安、というご家庭なら、軽い花器を選んで柱にかけて飾る「掛け花」がオススメです。写真はヤマボウシの一枝。凛として、場の空気感が変わるようです。