實川勝之さん
調理師学校で洋菓子を学び、洋菓子店シューベルトで修行。父の怪我をきっかけにパティシエの道をあきらめ農業を継ぐ。ケーキのように甘くて美味しいものを作るという志で果樹栽培を選び、梨の多品種栽培と独自商品・加工品の開発に努める「梨マイスター」に。
元パティシエの美意識から生まれた日本一絵になる梨園
訪問したのは台風一過の8月10日。今期の出荷が始まったばかりの農園には、たわわに実った梨の木が整然と並んだ姿がありました。まずはその風景にみとれることしばし...。写真でご覧になっても、まるで絵本の世界のような美しさだと思いませんか?
「梨の木は本来、上に伸びていくものですが、うちではこのように棚状に仕立てています。"一文字仕立て"といって、太い幹を2方向に仕立て、その先の枝を支柱に這わせて、一定間隔で隙間を広げるようにします。このかたちにすることですべての実に、太陽の光や雨が均一にあたるようになります。すると品質にムラがなくなり、玉が揃って収穫量が増え、味もよいという三拍子揃った梨づくりにつながっていくのです」(實川さん)。
それにしても自然物である果樹を、ここまで同じ樹形に仕立てている農園は、珍しいのではないでしょうか?
「はい、"パティシエ農法"と呼んでください(笑)。私は、農業を継ぐ前はケーキ職人の世界にいました。ショーケースに並べるケーキは手づくりですが、味も見栄えも均一感が大切ですよね。私は、ここをケーキ屋さんの"ショーケース"のようにしたいと思い、オリジナルの方法で取り組んでいます」。
約16年かけて、このような芸術的な農園を育て上げてきたそうです。
ところで、梨は一本の木から、複数の品種の梨がとれる(!)ということ、知っていましたか?
「梨は、いろいろな品種の枝を1本の木に接ぎ木することができるんですよ。生育特性の違う梨をつけることで、木に一度に負担をかけないようにします。また収穫適齢期の異なる梨で、ピーク期間をのばしたりといった調整も行います。一般的な農家さんは幸水、豊水、新高を中心に4〜5種類ぐらい作っていると思いますが、うちでは今年は35種類かな...。なぜって? いろいろな梨があったほうが楽しいじゃないですか!(笑)」。
城山みのり園では毎年新しい梨の栽培にも試験的に取り組んでいるので、どんな梨に出合えるかは、その時のお楽しみ。収穫期は8〜11月頃まで、早朝6時に一つ一つ完熟しているのを目で確認し、最もおいしい状態で摘みとりします。そのため、生果に関しては直売が原則。午前中で売り切れてしまうことがあるので、確実に手に入れたい方は電話で確認してから出かけるほうが賢明です。
「農園ではもぎとり体験(予約制)も行っているので、希少な梨や、まだ世に出回っていない名前のない梨も試食していただくこともできるかもしれませんよ」(實川さん)。
自分好みの梨をつくれる「梨の木オーナー制度」
また、「梨の木オーナー制度」というユニークなプランも実施しています。年会費5万円で1月1日から12月31日の一年間、梨の木1本のオーナーになることができます。
オーナーになると、梨の木を接ぎ木によってカスタマイズしたり、収穫体験をすることができます。品種によっても異なりますが、1本の木からおよそ200~250個ほどの収穫ができます。多くの人に配りたい人は多めに実を付けさせ、小ぶりでたくさん収穫できるようにします。一方、実を大きくしようとすれば、数を減らしてつくります。こちらは大きなものを作ってビックリさせたい人向き。親しい友人と共同オーナーになって、レジャーがてら梨の成長を楽しむのもいいかもしれません。
収穫のタイミングもお好み次第。「梨はシャッキリしてないとイヤ」という人は若干早めに収穫して、甘さとシャッキリ感の両立を図ります。逆に「私はとにかく甘いほうが好き」という人はじっくり完熟まで置いて、甘さと芳香のすばらしい梨を手に入れられます。
コラム:美味しく食べるための梨の保存方法
梨は追熟(置いておいたほうが熟して美味しくなること)しないフルーツなので、収穫時が最も食べ頃。ですので、みかんやりんごと違って大量のまとめ買いはおすすめしません。買ったらなるべく早めに食べる、保存するならすぐに冷蔵庫に入れる、が原則です。冷蔵庫では冷風ふきだし口にあてないこと。冷やしすぎない、野菜室くらいが適温です。