東京有数の老舗店で、「角打ち」の魅力再発見
ここは四ツ谷駅前、靖国通りから一本入った街角の酒店「鈴傳(すすでん)」。聞けば創業はペリー来航の3年前、嘉永三年(1850年)! 初代の鈴木傳兵衛さんから数えて七代目に至る現在まで、ずっと四谷で酒屋を営んできたとのこと。明治初期から1952頃まで宮内庁御用達の免許を持ち、皇居にお酒を納めていた老舗中の老舗です。
「角打ちは、当店は戦前から行っていました。戦前は大工や経師(襖や屏風の表装をする人)など職人が多く訪れていたと聞いています。第二次大戦は、霞ヶ関がGHQに接収されて、官庁が四谷に移転してきた時期がありました。その頃には役人が主なお客さまとなり、店先や庭で一杯、あるいはうちの座敷の一部を開放して飲んでいただいたりしていました」と店主の磯野さんは話します。
1970年代になると、先代が業態を日本酒専門店に切り替え、現在の自社ビルに立て替えました。その際に「スタンディングルーム鈴傳」と名付けた、角打ちスペースを併設したのだそうです。45年間内装を変えず、昭和の面影が色濃く残る店内には、立ち飲みテーブルが10個ほど。東京における立ち飲み居酒屋の草分け的存在といえます。
角打ち開店時間の17時になると、ぞくぞくとお客様がやってきます。お店の壁に貼られた本日の地酒リストをじっくり眺めて、好みの銘柄を注文。正味1合なみなみと注がれるコップに、こぼれないようちょっと口を付けてから自分の席に運ぶのがお作法。通常の居酒屋料金よりかなり格安で、希少な地酒を味わうことができます。
「事前の告知なく、珍しいお酒が入ることもあるので、日本酒がお好きな方はときどき店を覗きにきてほしいですね」(磯野社長)。
一方おつまみは、イカ大根や魚の甘露煮、ポテトサラダなど10数品が、昔懐かしいアルミのバットに並びます。1皿380円〜430円で、お酒や小皿と引き換えにその都度料金を支払うシステムです。手作りのおつまみが売り切れになってしまうと、缶詰が出てくることもあります。
「日本酒は大変デリケートで温度変化や光に弱く、鮮度がとても重要です。店の地下に3つの温度帯に区分けをした冷温貯蔵室をもち、常時180種ほど保管しています。ご自分で好みの一本を選んできて、店内で開けていただくこともできますよ」(磯野社長)。
地下冷蔵貯蔵室でお客さま自身がお酒を選ぶというシステムは、約30年前から。先代社長が欧州のワインセラーを視察して導入したものだそうです。店構えはレトロですが、日本酒の品質管理はいまも最先端といえそうです。
店内が最も賑わうのは金曜日、「十四代の日」。鈴傳は幻の銘酒「十四代」の特約店となっており、金曜日のみ一合なんと600円で提供されます。また「火曜日は牛すじの日」「水曜日はレバーの日」「金曜日は煮卵の日」など、おつまみのスペシャルデーを楽しみにしているお客様もいるそうです。
スタンディングルーム鈴傳
住所:新宿区四谷1-10
電話:03-3351-1777(団体の予約可)
営業時間:17:00 - 21:00
定休日:土曜、日曜、祝日、お盆、年末年始
URL:http://suzuden-sake.com/
コラム:鈴傳が伝授する角打ちの作法
□ 立ち飲みで長居をしない
□ 飲み方は、始めゆっくり、中ぱっぱ。適温のうちに味わうべし
□ 酔っぱらってトラブルになるほど深酒しない