現代アートのような白いハウスが出現
「EQ Houseは、ダイムラー社の中長期戦略『CASE(ケース)』に触発されて創りあげた施設です。CASEとはConnected(コネクト)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(シェア及びサービス)、Electric(電動化)の4つの頭文字をとったもので、これから未来に向かって、クルマは着実にCASEに向かって進化していくでしょう。
そんな次世代のクルマが世の中に浸透していけば、人々の生活はもちろん、建物だって何も変わらないわけがありません。ではモビリティ(クルマ)とリビング(家)の観点から未来を描くとどのようになるのか、それをリアルに作って体験してもらおうと、このEQ Houseをデザインしました」と語る花岡さん。早速、見どころを解説していただきました。
東京本店 設計部 設計第2部門
設計4(アドバンスト デザイン)グループ長
花岡 郁哉 さん
日照を計算して緻密に組み合わせた外光パネル
まず、最初に目を引くのが壁面のデザインです。EQ Houseは菱形の切り込みがランダムに施されたアルミ製のパネル1200枚で組み立てられていますが、これはただの飾りではありません。この場所における1年365日の日照パターンを計算したうえで、最適な形状とレイアウトになっているのだそうです。家の中にいながら、まるで木漏れ日の下で過ごしているような心地よさを、デジタル技術を活用した設計・施工によって実現しています。
まるで生命が宿っているように"呼吸"するガラス
「では中に入ってみましょう」と花岡さんがエントランスに近づくと、磨りガラスのように曇っていた壁面ガラスがすーっと透明に変わり、中に人を招き入れるように反応します。
「ドアに採用しているのは、通電によって透明度が変化する調光フィルムです。人感センサーを使った建物のIoTシステムによって、まるで建築自体がゆっくりと呼吸し、生命が宿っているかのような演出をしてみました」と花岡さん。家と人がつながる未来には、家が生きていて見守られているというような感覚的な要素も重要になるのではないかといいます。
住む人に合わせてカスタマイズされる家
室内に入ると、エアコンは見当たらないのにどこからともなく涼しさが。これはアンダーフロア空調といって、壁面パネルを冷やして輻射熱で室温を下げるというものだそう。風のドラフトが起きず、体に直接風が当たる不快感がありません。
「これもAIが学習しながら調整しているのですが、実際には暑がりの人も寒がりの人もいて個人差がありますよね。光環境に対する好みも同様です。そこで、スマートウォッチの『いいね』ボタンを押して、今の室温や光の状態が好みだということをEQ Houseに伝えることができるようにしました。人は家に好みを伝え、家は人の好みを学習します。」(花岡さん)。
誉めてあげることで、どんどん自分好みに育っていく家。人と家の関係は将来そんなふうになっていくのでしょうか?
モビリティとシームレスにつながるリビングルーム
室内で最も目を引くのは、リビングルームにクルマが組み込まれた「モビリティチューブ」。電気自動車が普及すると自宅で充電するのは当たり前になりそうですが、そうするとガレージは不要になっていくのでしょうか?
「このスペースは、モビリティとリビングの接点を表しています。将来、CASEが進むと駐車場に人が出向くのではなく、予約したクルマが自走して家までやってくるということも考えられます。クルマや家の情報は、中央に設置されたガラスインターフェースに表示され、声による環境のコントロールも可能です」。
「ハイ、メルセデス、この車の情報を教えて」と話しかけてみると、ガラスインターフェースに情報が浮かび上がります。この音声入力のシステムの開発には、メルセデスの自然対話式音声認識機能「MBUX」の開発チームが参加しているそう。クルマとスマートフォンでできることが、本格的に住宅設備に組み込まれていくことも、そう遠い話ではなさそうです。
人の言葉や雰囲気を感じとる"盛り上げ上手な部屋"?!
家が言葉を認識できるようになると、次は会話の雰囲気といった、人の心を理解できるようになるだろうと花岡さんはいいます。
「このベッドルームは、人の会話の活性度に合わせて、自動的に照明の明るさを変えたり、ディフューザーが香りを放ったりします。たとえば、ここで複数の人が拍手していると、調光のパターンやリズムが変化して、パーティーを盛り上げるように演出したりします。近未来の建築には、暮らしをあたたかく見守るような『優しさ』が備わると思います」。
※この記事は2019年5月27日時点での取材による情報です。価格や営業時間などは変わることがありますのでご了承ください。