隠れ家的な銀座のバーの扉を開けてみよう...
重厚なドアを開けると、爽やかに迎えてくれたのはオーナーの野原健太さん。バーテンダーの道一筋に歩み、シンガポールで開催されている「アジア・パシフィック・カクテル・コンペティション」の2013年大会で優勝を収め、その後独立して銀座5丁目に「Bar 銀座グレイス」を開きました。自らが接客の行き届く範囲でとの思いから、席はカウンターのみの9席。世界中からアンテナを張って集めたよりすぐりのお酒の香りや味を楽しむために計算された空間です。落とし気味の照明でムードを演出しながらも、シンプルで清潔感があり、女性客が多いというのもうなずけます。
銀座に店を持った理由は?と尋ねると、長年銀座で働いていて「バー同士も横のつながりが深く、皆でこの銀座の街をつくっているという感覚が好きですね」と答えてくれました。
香港のバーで仕事をしていた経験もあり、銀座との違いは「欧米人の顧客が多かったので早い時間から店が混んでいること。日本では『食前酒』の習慣が育っていないので、日本人はバーを利用するのは2軒目以降です。だから8、9、10時と遅い時間帯に徐々に混んできますね」。
では、初めてのバーに行くときは早めの時間がいいですか?
「比較的空いているという意味では、ゆっくりと店を見ていただけるかと思いますね」。
バーでの礼儀作法というのはありますか?
「女性はかまわないですが、男性には帽子を脱いでいただいています。またカウンターバーですと、コート類はドアの外で脱いでから入店していただけるといいですね」。
Bar 銀座グレイスでは、席に着くと最初にコンソメスープが出されます。これは、温かいスープでほっとしていただくという意味と、スープの脂で胃を守るという意味があり、欧米人ほどアルコールに強くない日本のお客様を気遣っての野原さん流のおもてなしです。しかし食事の用意はしていません。料理のにおい自体が、隣でお酒の香りを楽しむ人の邪魔になってしまうからです。バー銀座グレイスに揃うフードは、あくまでお酒の味わいを引き立てるためのツマミです。
また、グラス選びも野原さんのこだわりのひとつ。グラスとの出会いを大切に、何年もかけてアンティークショップなどをまわり、こつこつと集めた一点ものが磨き上げられて並んでいます。お客様にとっては、注文するたびに違うグラスを愛でる楽しみがあるといえるでしょう。
コラム1
バー銀座グレイスのオリジナルカクテル
アジアグランプリに輝いた
「オーチャード グレイス」
独立後の店名の由来にもなった、2013年アジアパシフィック・カクテルコンペティション優勝作品。カシスが香るウォッカをベースにふくよかな甘みと果実味たっぷりのカクテル。1,500円(税別)
[カクテル1:マンハッタン]
氷の扱いに気を配ってエレガントなもてなしを
それでは、さっそく、野原さん自慢の一杯を。男女を問わずバー銀座グレイスのお客さまに人気が高いクラシックカクテルの代表、マンハッタンをお願いしました。
冷蔵庫から氷塊を取り出し、包丁で削ってシェーブドアイスをつくりはじめた野原さん。それをカクテルグラスの中に入れ、内側を冷やし始めました。
「グラスごと冷蔵庫で冷やしておけば早いですが、持ち手まで冷えてしまってお客様が手に持ったとき不愉快でしょう。だからこうして一手間をかけて、器の中だけを冷やしています」。
また、カクテルをつくるミキシンググラスのほうには氷塊を入れ、バースプーンでくるくるとステア。ながく回転を繰り返した後、溶けた水を捨てながら「こうするとミキシンググラスがほどよい温度に冷えて、お酒が水っぽくなりにくくなり、狙った味が長続きするんです」。
Bar銀座グレイスでは、店で使う氷の温度を常に−11〜-12℃にキープしています。この温度より高いとすぐに溶けてお酒が水っぽくなりやすく、低いと常温のウイスキーなどを注いだとき氷がピキッとひび割れたりします。
「ひび割れて氷を白く濁らせないようにすることがエレガントなおもてなしだと私は考えています。グラスの底まで透き通って見える最高に美しい氷の状態で、お客様にお出ししたいですからね」と、氷の取り扱い方もプロのバーテンダーとして重要な仕事だと語ってくれました。
ウイスキーとベルモットのカクテル「マンハッタン」は、カクテルの女王とも呼ばれています。銀座グレイスの場合は、「テンプルトン」(ライ麦のウイスキー)と、スイートベルモットの「アンティカ・フォーミュラ」(白ワインにハーブとカラメルを加えたお酒)を3対1でステア。一点もののグラスに注いだ後、最後にオレンジの皮を軽く絞って香りづけをします。皮の渋みで、甘みを引き締めるのです。
「香り高くて、甘く、飲みやすく、女性向けのカクテルといわれていますが、アルコール度数は約30°ありますので、お酒に弱い方はご注意を」。