イタリアの人々を癒す、湖上の邸宅
~ヴィラ・デル・バルビアネッロ~『007 カジノ・ロワイヤル』より
Vol.2 / 2011, 12
『007 カジノ・ロワイヤル』の劇中に登場した、「ヴィラ・デル・バルビアネッロ(バルビアネッロ邸)」。18世紀末、外交官のアンジェロ・マリア・ドゥリーニ卿のために、フランシスコ会の修道院跡地を整備して建てられたものです。湖と山々に囲まれた邸宅から広がる景色を、当時の人々は何を思いながら見ていたのでしょうか。
ヴィラ・デル・バルビアネッロ
ミラノから50kmほど離れた場所に位置する高級避暑地、コモに建てられたヴィラ・デル・バルビアネッロ。木々の生い茂る岬の先端に位置する邸宅は、イタリアで3番目に広いコモ湖に面し、アルプスの山々に囲まれています。雄大な自然が広がる素晴らしい景色に魅せられた者は多く、「赤と黒」などで知られるフランスの文豪・スタンダールがその眺めを日記に残しているほかに、貴族や上流階級の者が休暇の際にはこぞって訪問。大自然の中にあるヴィラで、心と体を休めていました。
建物の特徴
建物の特徴は、イタリアで生まれた「ロッジア」と呼ばれるスペースの存在。ロッジアは、アーチと柱によってつくられた廊下状の空間で、デザイン的な要素のほかに、夏場は涼しい風に当たることができる休憩所としての役割もあります。特に、バルビアネッロ邸のロッジアにはツタが生い茂り、優雅で独創的な雰囲気が人気。テラスになった庭からはコモ湖の絶景を見渡すことができ、訪れた人々の心を安らげています。また、修道院の鐘楼(しょうろう)として使われていた2つの塔もポイント。多くのヴィラが点在するコモにおいて、バルビアネッロ邸のシンボルマークとして親しまれているほかに、コモ湖を行き交う船が湖上の位置を確認するための目印にもされています。
18世紀以降、バルビアネッロ邸をはじめ、いくつものヴィラが建てられたコモ。喧騒から離れ、自然と調和したその空間は、ナポレオン戦争に揺れた18世紀末のイタリアの人々を癒し、冷房機器のない当時の夏を快適に過ごすための"豊かな生活の場"となっていました。深い自然に囲まれた、安息のひと時--ストレスフルな現代社会を生きる私たちに必要なのは、"物"ではなく、ヴィラのような"空間"なのかもしれません。
なお、ドゥリーニ卿の亡き後、バルビアネッロ邸は何人もの所有者を経て、イタリアの文化財保護を目的とするナショナル・トラスト「FAI(Fondo per l'Ambiente Italiano)」に寄与。現在は同団体の管理のもと、邸内の見学会が開かれており、その優雅な空間と当時と変わらない景色を堪能することができます。
●コモ湖へのアクセス
国鉄FSと、私鉄の2通りがあるが、コモ湖旧市街中心へ行くには私鉄が便利。
*私鉄
ミラノ・マルペンサ空港駅からミラノ北駅まで、マルペンサ・エクスプレス線にて約40分。
ミラノ北駅からノルド線にて約1時間。
コモ・ノルド・ラーゴ駅に到着。湖畔や旧市街にすぐ。
*国鉄
ミラノ・マルペンサ空港駅からミラノ中央駅まで、シャトルバスにて約50分。
ミラノ中央駅からインターシティにて約40分。
コモ・サンジョヴァンニ駅に到着。
湖畔までは徒歩10分程度。
【住所】
VIA COMOEDIA 5 22016 LENNO (CO)